学校長からのメッセージMessage

清流68

「豊かな魂」こそが人生を有意義に歩み、幸せになれる源なり

 季節はめぐり、常に私たちに相変わらぬ春夏秋冬の色合いを届けてくれます。しかし、時には思いもよらない出来事が起こることがあります。その一つは左藤恵学園長先生がご逝去されたことです。行年九六才でご浄土に旅立たれました。ご逝去を悼み慎んで哀悼の誠を捧げたいと思います。学園長先生が阿弥陀仏の住まわれる極楽浄土、西方浄土でやすらかに暮らされることを皆様とともに心よりお祈りしたいと思います。
学園長先生は僧侶で、政治家、弁護士でもあり、何よりも教育者であられました。京都大学をご卒業になり、当時の郵政省にキャリア・第一種国家公務員として入省され、たぐいまれな才能を発揮して郵政省の基盤づくりに貢献されました。その後、父の左藤義詮先生の後をお継ぎになって政治家の道に進まれました。大阪府の衆議員選挙で一〇回連続当選して、この間に郵政大臣、法務大臣、国務大臣・国土庁長官を歴任され、大阪府はもとより日本の国に多大な貢献をされました。日本を代表する政治家であられました。
一方、学園長先生は一九六九年から二〇〇三年まで三十五年間の長期に亘って大谷中学校、高等学校の校長先生を務められました。政治家として多忙な時であっても、学校行事には必ずご指導をいただき、多くの生徒を幸せの道に導いていただきました。特に、中学一年の多武峰の林間学舎には欠かさず参加していただき、新入生たちに大谷学園・大谷中学校、大谷高等学校の教育理念を教授していただきました。
本校の教育理念は「次世代の命を育む女性にこそ高い教養と豊かな魂を」の言葉に込められています。本校はこの理念を礎に、常に「朝に礼拝、夕に感謝」の校訓を唱和し、「報恩感謝の念」を育む教育を実践しています。この教育の精神的支柱が左藤恵学園長先生でした。ご逝去されたことは誠に悲しく、寂しく、残念でたまりません。学園長先生は常に大谷学園の発展を願われ、学園にご縁のある全ての方々の幸せを願っておられました。学園長先生が望んでおられたことは、『私たちが、課せられた責務を十分に果たし、人として、「生まれてきてよかった」「生きてきてよかった」と思える人生を歩んでほしい』ということであったと思います。先生のご意向に沿うよう、私たち一人ひとりが精進努力し、幸せの道を歩きたいと思います。報恩感謝です。学園長先生に心から何度も何度も「有難うございました」の言葉を捧げてください。
新コロナウィルス禍の影響も特筆すべきものがありました。今年度は新型コロナウィルスが発生し、波乱の幕開けとなりました。全国に「緊急事態宣言」が発出され、経済を始めとして、世の中の様々な分野が大きなダメージを受けています。教育界も類にもれず、教育活動が制限される深刻な環境になりました。本校も臨時休校を余儀なくされ、通常の授業を補うため今の時代に求められている双方向によるライブ授業を含め、オンラインでの授業を実施しました。また、従来から行っている電話による励ましなど心を豊かにするアナログ方式を併用して、この難局を乗り越える措置を取りました。実施後のアンケートでは「良かった」とする項目が八十八%にも及び、多くの生徒から好評を得たことを大変うれしく感じています。
幸い、この間においては、生徒やご家族の方はじめ学校関係者には重篤な健康不調もなく、六月十五日に中高の入学式を挙行することできました。その後、通常授業を再開し平静を保つことができていることを心から感謝いたします。
世の中は常に平穏とは限りません。今回の新型コロナウィルス感染症など社会を覆う未曽有の危機はきまって不意に訪れます。私たち人間には愚かな面があって、有事の時には自分の経験したことや、知りえていることでしか状況を判断することができなくなり、自らの経験や知識が全てだと思い込んでしまっている傾向があります。そして、人々は不安と恐怖から理性を失い、狂奔した行動に走ることが度々あるのです。例えば、日用必需品の買い占めに走ったり、他国民を非難したり、人として見苦しい振る舞いをしてしまうことになります。悲しいかな、恐ろしいのは移りやすい人の心です。平時であれば常識的な行動をとり、自制心を保つことができても、非常時になると自分中心の考え方が芽生え、利己的になり、おのずと人間としての品位が失われていくのです。私たち人間の品格が問われるのは平時よりも、むしろ、こうした今までに経験したことのない出来事や苦難の時ではないでしょうか。
しかし、元来、私たちには「和」を尊ぶ心が備わっています。だからこそ、秩序を守りながら周知を集め、危機を打開することができると思うのです。これまでに幾度も遭遇した災難にあっては「私」より、「公」を優先し、周りの人々に思いやり、互いに支え、助け合った行動のひとつ一つに、この精神が生かされていたと言えるでしょう。
今後も、有事の時こそ節度を失わず、競い合うよりも、皆が一つ、ワンチームになり、平穏な生活が営むことができる源泉である「和合、なかよくたすけあって」の心を大切にしていただきたいと願うばかりです
さて、これまでの学校生活を振り返ってみると、学校行事の中でも大変重要な球技大会、体育大会、音楽会、能鑑賞などが感染拡大防止のために、実施できなかったことはとても残念なことでありました。文化祭も例年よりも規模を縮小して、開催しなければなりませんでした。しかし、全ての生徒が現状をよく理解して、日々の努力の成果を十分に発揮し、立派に盛り上げてくれたことは高く評価することができます。特に、文化祭で披露することになった高校三年生の「民よう」では、浴衣を纏った乙女たちが、百十一年の伝統の中で培われた「大谷愛」を感じながら、多くの方々に感動を与えてくれたことは深く心に刻まれています。また、クラブ活動や校外活動においても、日頃から培ってきた成果をいかんなく発揮して、中学時代、高校時代にふさわしい青春の一ページを飾ることができました。一方、中高の学校生活における集大成となる修学旅行は日程と訪問先を大幅に変更して、中三は沖縄から広島方面に、高二は北海道(凛花コース・カナダ)から長崎方面に平和教育を含めた研鑽の旅の予定となっていましたが、残念ながら叶うことはありませんでした。現在、修学旅行の意義に沿う代替の行事が可能かどうか模索しています。
本校の教育理念の拠り所となる宗教的情操教育も無事に終えることができました。報恩講、追弔会、了秀忌、朝拝会、日々の朝終礼は創立以来、四世代に渡って脈々と伝わっている「大谷の精神」の原点です。私たちは一人ひとりを支えていただいている様々な人々や、いつも寄り添って存在する自然などの事物の恩恵に授かって、平穏で幸せな生活を送っています。これらの行事を通して、今後、人として、人の世、人世を歩む中で大切なことは、どの様な時代や社会に生きることになろうと、与えられた環境の中で「生まれてきてよかった」「生きてきてよかった」と思える証を残し、「おかげ様」と感謝できる心を育むことあると学びました。また、自分の人生に「ありがとう」と言える生き方をしているかどうか、改めて自分に問う機会になったと強く感じています。
三学期は中学校、高等学校の卒業式を迎えます。中学三年生の皆さんは義務教育を離れ、高等学校に進むことになります。これまで以上に自覚と責任が求められる学校生活を送ることになります。
高校三年生の皆さんは六年間の学業を終えられ、いよいよ通いなれた学び舎を後にし、新たなステージに上がろうとしています。ご卒業、誠におめでとうございます。中学、高校の六年間はあなた方にとっては掛け替えのない青春を謳歌した人生の一ページであったと思います。人生で最も華やかな二度と戻ることのない大切な一瞬を互いに思いやり、助け合った友達と学校生を活共有できたことを誇りに思ってください。桜が咲き誇る時季に胸を躍らせて中学校に入学してから早や六年が経過し、今まさに、大谷学園での学校生活に終止符を打とうとしています。この間においては楽しいこと、悲しいこと、感動したこと、がっかりしたことなど様々な経験を味わったことでしょう。おそらく、全ての経験は卒業と同時に、それぞれの脳裏に深く焼き付き、生涯忘れることのない自分自身にしか感じられない宝物に変わっていると思います。
卒業式という晴れ舞台を迎えるにあたり、忘れてはならないことは紆余曲折の学校生活の中で、温かく見守っていただいた両親、保護者の深い愛情です。授けていただいた真心に感謝しましょう。本校は「報恩感謝」の念を育んでいる学校です。報恩感謝とは、感謝して御恩に報いることです。これから歩む人生を豊かに、人に迷惑をかけず、健康で、楽しい生活をして、幸せになることによってご恩返しをしてください。
これからはグローバル化がますます進展し、ひとり一人の尊い個性が尊重される多様化、ダイバシティの時代を迎えます。このような先行き不透明な時の流れの中で、卒業生の皆様は谷あり、山ありの人生を歩むことになるでしょう。人生で悩んだ時に、ふと、思い出して心を癒していただきたい言葉を送りたいと思います。それは「回り道」という三文字です。人生はいつも自分の思い通りに歩むことができる訳ではありません。自分の思い通りなる時もあれば、思い通りにならない時もある。楽しい時、悲しい時の連続です。全てのことが順調に進んできたことが、少し陰りが見え始め、これまでに経験したことのない曲がり角を迎える時があります。自信とは不思議なもので、失いかけると一気に音を立てて崩れていく、加えて不安がつのれば、自己否定の悪循環に陥ることもしばしばあることです。そんな時こそ、一旦立ち止まって、自分を見つめ直し、一度肩の荷を下ろすことも大切なことです。自分を点検する最初の機会が来たとポジティブに捉えることも必要です。
目標を達成して幸せをつかむ道筋には、近道もあれば回り道もあります。それが「人の道」人生なのです。ともすれば、近道を選びたくなるのが人情です。しかし、後から、しみじみと幸せを感じることこそ、回り道の奥深さではないでしょうか。人生は長い、焦らず、時には回り道の景色を味わって、ゆっくりと楽しむことも得難い体験になるに違いないと思います。
新たな夢舞台は整い、未知のステージの幕が上がりました。このステージであなた方がどんなパフォーマンスをしてくれるか、新しい真っ白なキャンバスにどのようなデッサンをし、どのような色付けをしてくれるのか、楽しみで一杯です。あなた方の成長を期待しています。どうか、「やさしく、かしこく、うつくしく」育って、世の中の一隅を照らす女性になってください。あなた方の過ごした学び舎には人を愛する、人を思いやる「豊かな魂」が宿っています。いつまでもあなた方の足跡が残り続けるでしょう。これからも、常に「わが母校大谷学園」「わが心のふるさと大谷学園」と声高らかに誇れるように、充実した楽しい生活を送ってください。
結びに、卒業生の皆様に幸多かれと切に願うとともに、大谷中学校・高等学校の保護者、在校生を始めとして、ご縁を頂いている全ての皆様方のご健勝を心よりお祈り申し上げます。

(令和3(2020)年3月)